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先端精神医学コース解説

 さて、話を戻します。

 AIが診断が苦手なのは、何らかの制約が内在するからではなく、そのひな型となるヒトによる診断や疾患概念が、大根切りで不完全すぎるからです。またもし仮にAIが実用に足る精度の高い診断ができるようになったとして、AIの診断過程を、人間が理解可能な線形のぶつ切り概念に置き換えて説明することもできません。しかしこうした制約を乗り越えてAIがすぐれた診断能力を具備するのは、時間の問題ともいえます。AIと精神科診断の両方に精通した人が、診断の限界の理由の何たるかに気づいてしまえば、統合的な開発は容易になります。

 判断をする機械が現場に浸透した未来の精神科医は、どのような役割を担うことになるのでしょうか。興奮した人を隔離するだけの、門番や看守のような仕事なのでしょうか。あるいは権威を失った宗教や政治を代替する仕事なのでしょうか。それとも脳外科や神経内科に吸収されてゆくのでしょうか。いささか暗い想像ばかり先走ってしまいますが、産業革命やコンピューターなどが、むしろ人間の仕事を増やしてきたのと同じことが起こると考えることもできます。いずれにせよ、従来の精神科医の役割は機械が補完するか、代替するかした結果、精神医学にかかわる何らかの新しい仕事が生まれ、次世代の精神科医の役割は今とは大きく異なったものになることは必定です。それが何なのかはわかりません。

 そうした大きな変化が目前に迫ったいま、精神医学が従来の精神医学のままとどまり続けるべきではないことは明らかです。少なくとも、神経科学や行動科学の文脈で、従来の精神医学を解釈し直し、再定義し、血肉化してゆく必要があります。これからの5年間の変化はこれまでの5年間の変化よりもずっと急激です。このコースでは、神経科学という観点から精神現象を考察できる能力を持った医師になり、精神医学にどのような変化が訪れようとも順応してゆける医師を目指します。